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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2903号 判決

控訴人 板垣富士雄

被控訴人 三洋開発株式会社

右代表者代表取締役 笠井麗資

被控訴人 三洋地産株式会社

右代表者代表取締役 笠井麗資

右両名訴訟代理人弁護士 新津章臣

被控訴人三洋地産株式会社訴訟代理人弁護士 新津貞子

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(被控訴人らの主張)

一、本件控訴は、控訴人において昭和四八年一月二九日頃取下げられたものである。すなわち、控訴人は次項に述べるごとく、被控訴人らとの間で合意が成立し、直ちに控訴取下書を控訴人みずから作成して自署捺印し、そのリコピーしたものを御庁に提出し、本件記録に綴りこまれていたが、担当書記官が裁判官よりリコピーではなく、原本を控訴人より受領するよういわれたため、同年三月某日控訴人に取下書を交換すべく手交したところ、控訴人はこれを持ち帰ってしまったという事実が判明した。従って、控訴人は書面により控訴取下書を提出していたのであるから御庁で提出された日に本件控訴は取下げられたものである。

二、仮りに右期日に取下げがないとしても、控訴人は昭和四八年一月二五日被控訴人らとの間で双方本件第一審判決に服する合意が成立した。控訴人は本件控訴を取下げかつ本案前の仮差押手続を取消すので本件第一審判決記載の金員を支払ってもらいたい旨の申入れがあり、被控訴人らもこれを承諾した。そこで被控訴人ら代理人は御庁に控訴人の取下書の提出があったか否かを問合わせたところ、取下書の提出があった旨の回答を得たので、前記仮差押取消手続終了後、昭和四八年三月二日第一審判決後の元利合計金一二四万八、五二一円を原審における控訴人代理人西川茂弁護士に支払い完済したものである。

(控訴人の主張)

一、控訴人と被控訴人らとの間で、本件控訴を取下げる旨の約束をしたことはない。

二、昭和四八年三月二日西川茂弁護士が、金一二四万八、五二一円を受領したことは知らない。控訴人は右金員を同弁護士から受領していない。

(証拠関係)≪省略≫

理由

被控訴人らは、本件控訴が控訴人において昭和四八年一月二九日頃取下げられた旨主張するが、本件記録を精査しても右事実を認めるに足りる資料は何ら存しないので、右主張は理由がない。

次に被控訴人らは昭和四八年一月二五日に控訴人と被控訴人らとの間で、控訴人が本件控訴を取下げる旨の合意が成立したと主張するので、この点について判断するに、≪証拠省略≫によれば、昭和四八年一月二五日頃、控訴人と被控訴人らとの間で、控訴人が原判決記載の金員を受領することで、本件控訴を取下げる旨の合意が成立したこと、控訴人の原審における代理人西川茂弁護士が控訴人の委任を受け、昭和四八年三月二日被控訴人ら代理人新津章臣弁護士より、元本金一二〇万二、九五八円および昭和四七年二月六日より原判決確定日である昭和四七年一二月一一日までの損害金金四万五、五六三円を西川の取引銀行である富士銀行九段支店当座預金口座に送金させて受領し、同年三月九日右金員を財団法人法律扶助協会へ納付したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右のごとく、当事者間において控訴の取下に関する合意が成立した場合は、控訴人は権利保護の利益を喪失したものとみるのを相当とするから、本件控訴は却下すべきものである。

よって本件控訴を却下し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 田嶋重徳 判事 加藤宏 園部逸夫)

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